デニ・ムクウェゲ氏

今年のノーベル平和賞は、コンゴ民主共和国の産婦人科医　デニ・ムクウェゲ氏　イラクのヤジディ教徒　ナディア・ムラド氏　両名が受賞された。私はこの方たちを全く知らなかったが、ムラド氏についてはテレビ等で多少報道されたので、ムクウェゲ氏について調べてみた。ムクウェゲ氏は、１９５５年生まれ。１９９９年に、コンゴ東部のブカブにパンジ病院を設立して以降、暗殺未遂に遭いながらも、医療・心理両面に渡って３万人以上の性暴力被害者を治療されてきた方だそうだ。

コンゴ民主共和国

コンゴ民主共和国はアフリカ中央部に位置し、東部に豊富な天然資源があり、それ故に近隣諸国との絶え間ない争いが続いていた。１９９６年～１９９７年、第１次コンゴ戦争においては「ジェノサイト（民族浄化）」とも特徴づけられる非人道的行為が行われた。１９９８年～２００３年、第二次コンゴ戦争では同じ問題（民族対立・資源獲得競争）が原因で争いが起こり、現代アフリカ史上最悪の戦争であると言われている。８つの周辺国と少なくとも２５の武装勢力が関係していた。この戦争とその余波で起きた虐殺・病・飢えで亡くなった人々は２００８年までの累計で５００万～６００万人とされている。

紛争下の性暴力は「戦争の武器」である。

性暴力は加害者の性的欲求から行われることもあるが、経済的・政治的理由から組織的に生じることも多い。コンゴ東部においては、その地で暮らす住民を恐怖に陥れて劣悪な環境化のもと鉱山で働かせたり、他の地に難民として逃れるように仕向けているといえる。紛争下の性暴力には相当な影響力と破壊力があるため、ムクウェゲ氏は性暴力ならぬ「性的テロリズム」と呼んでいる。コンゴのような紛争国では司法制度はほぼ機能しておらず、加害者は不処罰でいることが多く、まさに最も効果的で安上がりな武器である。彼はコンゴの性的テロリズムの被害者を治療し続ける傍ら、コンゴ東部の鉱山資源の略奪を目的に国軍や反政府勢力が性暴力を犯し続けた事実について、国連本部をはじめ世界各地で声高に避難し、女性の人権尊重を訴えてきた。だからこそ彼の存在を良しとしない勢力から襲われるのであろう。自身は暗殺未遂に遭い、親友・人権活動家が暗殺されながらも闘い続けている。