作者アントワーヌ・サン＝テグジュペリは、1900年6月29日　フランスのリヨンに生まれました。1926年　南方郵便機で作家デビュー、1931年　夜間飛行でベストセラー作家となりました。1943年４月　アメリカで星の王子さま（フランス語版・英語版）を出版、翌年７月にフランス本土への偵察飛行にコルシカの基地から飛び立ち帰らぬ人となりました。

フランス人であるサン＝テグジュペリは、星の王子さまをニューヨークで出版していたのです。第２次世界大戦中　ナチス・ドイツに攻め込まれたフランスでは、傀儡政権といわれたペタン元帥のヴィシー政権が樹立しこれを嫌った作者はアメリカに亡命したのです。ニューヨークでは英語が不得意なため、交際は在米フランス人仲間に限られていました。彼はヴィシー政権とロンドンにあったドゴール将軍の亡命政権双方から協力を求められました。どちらの誘いにも応じなかったため、フランス人仲間から疑惑を抱かれてしまい孤立に追いやられました。そして、星の王子さまの出版、戦列への復帰、翌年の行方不明へと運命は回転していきました。このような状況下で、今なお世界中で愛され・出版され続けている作品が誕生したことに心から驚きました。

王子さまがキツネから教わる「大切なことは目に見えない」という言葉は、この時代背景を知るとさらに重く私にのしかかってきます。王子さまは大切なバラへの責任を果たすため星へと帰っていこうとしました。この「バラ」のモデルは作者の妻、コンスエロとするのが通説となっております。他方「バラ」をフランスとし、全国民がドイツの圧制に苦しんでいる、その祖国フランスに自らの生命を懸けて（責任を果たす為に）目指したともされます。亡命先のアメリカからフランス領北アフリカで再編された原隊に向かう勇気に、私は自分ならそのような行動が取れたか自問するしかありません。

死を覚悟しながらアメリカを立つサン＝テグジュペリ。彼の最後の作品である星の王子さまは、ファンタジーの要素に目を向けるだけでなく、その時代背景と作者の置かれた立場を考えると多くの示唆も含まれた作品と思えてなりません。